冬の庭はさびしい。だが地中ではさぞかし混みあって忙しいことだろう。高潮で全滅した庭の空白がいたましくて、ひたすら球根を埋め込んだ。その上にビオラの苗を植え、レンゲの種を蒔き。春になり、花がその所在を主張し始めたら、私は自分の記憶について自信をなくすことになるだろう。
ヨーロッパの磁器の過多な装飾を嫌い、柿右衛門の美しい空白の高雅さを讃美しながら、庭には余白を認めたくないのだ。
今は暖冬で、まだ雑草が青々と地面を覆っている。雑草でも緑は緑。カタバミ、ムラサキカタバミ、ハコベ、スズメノカタビラ、オキザリス、パセリ、カモミール。。。。。

高潮でほとんど枯れたつるバラ「ジーザス・クライスト・スーパースター」に新しい芽が立ち、蕾までつけている。
 'tis the last rose of summer.
日本語訳されて、女学生愛唱歌「庭の千草」となり、なぜかバラは白菊になってしまった。

その「庭の千草」では、
 ああ、白菊、白菊、ひとりおくれて咲きにけり。
となる。私の小さな庭では、白い小菊は終わり、赤だけが残っている。

壁ぎわで、もう30年植えられっぱなしの水仙だ。たいていは忘れられているが、冬のはじめに葉を茂らせると、ずぼらな庭師に思い出してもらえる。慎ましくて、気丈で、ナルシスもかくかとばかりの立ち姿。水仙は群生よりも孤高が良い。

アネモネ。早々と花を咲かせてしまった。茎が伸びるひまもなく、花は下向きに地面に圧しつけられて、可哀そう。切り取ってグラスに生けると、たちまちあでやかに咲き広がった。