予防注射 

6月は残酷な月。ついに保田先生から、あやしい笑い顔をした猫の絵のついた葉書がきた。里親は過去2度の経験を思い出し、「どうしよう?」
ぼくにとって、予防接種は決して容易な試練ではない。一週間も、副作用で苦しむのだ。人間の子なら、訴訟ものだね。この間、里親もぼくといっしょに苦しがる。無意味だけどね。結局、今生の別れを覚悟した悲愴な決心で、保田先生のところへ行くことになる。
ぼくはもう、ジタバタしない。非情な人間にはとっくに絶望している。そして一週間、脚が萎えたようにふらつき、全身が苦しい。ひたすら穴居して堪え忍ぶのだ。

門柱の上にて
ようやく気分恢復して、庭のテリトリーをパトロール。異常なし、ではなかった。何を踏んだか、左の後脚の指が痛い。階段を駆け上がれない。里親に見つからないよう、こっそり押入に隠れる。左後足の指をひろげると血だらけだ。痛い。敗血症になったら、大変だ。とにかくなめる。ひたすらなめる。夢中になっていたので、里親がにらんでいたのに気がつかなかった。不覚。たちまち赤いキャリーバックに押し込められ、保田病院へ。注射。ぬり薬。のみ薬。
里親は、日ごと、陶器の駄作を作っている。たいていの作品は、窯から即、庭に捨てられ、割られる(φクラブ表紙をみてね)。破片は鋭くて、ぼくの足裏を切るほどだ。それから3日ほど、里親は庭に出て、破片を拾い、雑草を抜き、庭のそうじに励んだらしい。足が治って、久しぶりに庭に出て、もうがっかりしてしまった。危険物がなくなったのはいいけど、バッタ・コオロギが飛び跳ねる浅茅が宿も、きれいさっぱり何もない。ハイウェイのようになっていた。  BACK
プチ日陰 生い立ち