歯のはなし
ぼくの白く輝いていた日々は、もう失われてしまった。といっても、ロマンチックな話じゃなくて、ぼくの歯の輝き。近頃、黄色くなって、おまけに切れ味まで鈍ったようだ。その証拠に、バトルしても、里親の無礼な手を血祭りにあげることができず残念。ということで、
「まおちゃん、田村先生に歯石を取ってもらいましょ」歯石をとるのは痛い。口の中が血だらけになるし、すうすうするし、まっぴらごめんだ。ベットの下に逃げる。
「じゃ、ハミガキしましょう」ハブラシが折れるほど噛んでやる。ゲーしそう。
「まおちゃん、お口のうがいですよ」このオーラル・クリーニング・ジェルとかいうもの、歯石防止とかで最近の里親のブーム。でもくさいし青いし。ふんと横を向いていたら、羽がいじめにされ、口の中に青いジェルをたらしこまれた。猫のブライドずたずた。
「じゃ、ハミガキガムはどう」フンフン、バリバリ、ゴックン。この猫用ハミガキ最終兵器はすごい。おいしい。もっと、もっと、ハミガキしたい。ぼくの目は輝き、足はいそいそと食料庫へ向かう。座り込んでとっておきの甘えた声で訴えたが、無情な里親がいうには「ガムは一日一つだけ」「こんなタラくさい、フみたいなもん。どこがおいしいの」。人間の味覚は貧しい。