まお 冬のファッション

冬、ぼくの至福の季節。こたつのなかにもぐって、暖かな暗闇を夢見る。母の胎内の思い出、遠い先祖の暮らしたリビア砂漠の岩穴の記憶。ときどきは、美しい毛皮の乾燥を防ぐため、充分なめまわして湿りを加える。



ところが、ある日、とんでもない災難がふりかかった。母さんたちは、インターネットの猫用品ショッピングサイトをひいきにしているが、そこではぼくの仲間たちが様々な衣装をまとって登場する。うらやましげに見ていた母さんたち。
ある日、「お正月も近いし、まおにも紋服がほしいわね」と、何やら注文する。そして届いた宅急便。それからぼくの受難が始まる。

猫足紋のついた黒い着物と袴を着せられ、写真を撮られる。窮屈である。あげく、ぼくのたるんだお腹が袴からはみだしていると、母さんたちは笑いころげる。ぼくの裸一貫猫としてのプライドは、2重にずたずたである。

その怒りもようやく忘れかけた頃、里親がメジャーを持ってきてぼくの胴回りを測り、何やら編み始めた。転がる毛糸玉が楽しい。遊んでいるうちに、何かできあがった。
「まおちゃん、お帽子とマフラーですよ。寒いから、うれしいでしょ」
ぼくが喜んでいるように見えますか(下図)。

災難は続く。魔女のユニフォームみたいな帽子とマントを作った里親は、「クリスマスにはサンタさん」と喜んでいる。「小人、閑居して不善をなす」とぼくは母さんたちに言ってやったが、猫語を理解しない彼らは、幸せそうな顔をしてぼくを見ている。やれやれ。