猫の青海波

明治維新、帝国主義時代の修羅場な引きずり出された日本が隣の清国の惨状を見ながら固く決心したことは「脱亜入欧」。つまり列強の仲間入りをして弱い者いじめに加わることである。それには「和魂洋才」まずは西洋式教育により富国強兵を果たすこと。しかし西欧式合理主義のやすりに和魂をかけられた日本人が、どれほど苦しんだことか。たとえば夏目漱石は留学地ロンドンでは自閉し、後年は胃潰瘍に苦しんだ。

かくて小学校以来西洋音楽で育ち、ベートーベンだチャイコフスキーだと夢中になっているうちに、私の耳はすっかり洋風に出来上がった。だから雅楽との出会いは決して幸福なものではなく、笙のひびきを聞いているうちに、耳がゆっくり捻れ出す不安にかられた。息を吸っても吐いても音が出る摩訶不思議な楽器を、私の耳は認めたがらないのだ。それにしても、天上的というか、宇宙に漂う星間物質のように、かすかでしかも濃密な感じは一体なんなのだろう。

うちの猫に雅楽「青海波」を舞わせようと思い立ったのは、その華麗な襲装束に魅せられたから。鳥かぶとをかぶり、千鳥を百羽も刺繍した袍の片袖を外し、長い裾を曳いて舞う。猫だから構造的に左脚を上げることができないのは残念。千鳥がカラスのように見えるのも残念。

赤トラが「桐壺帝の朱雀院行幸」より「青海波」を舞う光源氏、後ろの白ネコは頭中将です。

舞人・楽人(笙)・大太鼓 新春雅楽 青海波