まくわ瓜。その高雅、淡泊な味と香り、形と色の美しさが懐かしく、一夏苦労して育てた甲斐があった。鈍感だから過剰に濃厚になる現代へのプロテストか、単なる郷愁か、ともかく美味だった・ここまでは小さな庭もめでたかったのだが、とんでもない災厄がやってきた。

夏のある日。萩が萎れだし、たちまち枯れてしまった。その横のキーウィの若木も、葉が一枚もない。夏椿、ボタン、シャクヤク、フジバカマ、エゾヤマアジサイ、ホトトギス。いずれも葉が下から茶色に枯れてくる。同じところで千日紅などの草花は元気だのに。数年前やはりフジバカマが枯れた。掘り起こしたら、根一面に白いカビがついていたことがあった。その時、土を入れ替えるなど少々は対策したのだが。

ふだん、地場の醤油を愛用している。その製造元を訪れ、古来の製法を守っている発酵蔵を見たことがあるが、壁一面白いカビでおおわれていた。このカビが大切なのだという。人間の側からすれば同じ菌類でもコウジカビやキノコは善玉だが、カボチャカビ病やらイモチ病だのをもたらすカビは悪玉。カビにも言い分はあろうが、小さな庭が悪玉に侵されたと知って、少々逆上。エコロジストの馬脚が出る。石灰をまいて土壌をアルカリ化し、それと矛盾するのではと悩みつつ木酢液を散布し、農薬を各種取り寄せて宇宙人スタイルで土を消毒する。それでも、それぞれに思いがある植物たちを、助けられないかもしれない。人間は所詮カビにも負けるひ弱い存在だ。悲しい。