発端は久隅守景の国宝「納涼図」だった。夕顔棚の下で夕涼みする上半身裸の女性は、日本のモナリザではないかと思う。そのういういしい美しさをイメージして、去年夕顔の花を育てた。これが実は「夜顔」。道理でぼってりと濃艶な花だった。

今年こそと、まず夕顔を調べたところ、夕顔とは夜顔・ひょうたん・かんぴょうの総称。困った。「納涼図」の夕顔は明らかにひょうたんだ。ひょうたんはおもしろくない。ではかんぴょうの夕顔を咲かせてみよう。

塀際の狭い土地に棒を立て、麻紐で格子を組んで、プランターで作った苗を移植。インターネットのかんびょうサイトを調べると、何と広い畑に野放図に葉や蔓が茂って、ダルマのような巨大な実がころがっている。貧相なわがかんぴょう畑を眺めてため息。やがてかんぴょうの蔓が延び、隣家に侵入しようとするのをハラハラと眺めているうちに、念願の白い花が咲いた。夕方6時頃から咲き始め、4、5時間でしぼむ。実に清楚で、「納涼図」の女性そのもの。騒動した甲斐があった。

1株に1個の実をならせ、7月下旬熟した実をかつらむきして、天日に干す。かんぴょうがこんなに白くて美しいとはしらなかった。早速煮てみたが、市販のかんぴょうとはちがって、舌触りまで美味だった。