春、鳥は啼き、花は笑い、猫はからだを大地にすりつけ、人は困惑する。「これ芽が出てるけれど、何だったのだろう」

春の庭は、花にあふれ、色彩の競演で楽しませてくれるし、正体不明の植物を推理する知的な楽しみがある。えたいの知れない緑の芽をじっと見つめていると、だんだん忘却の底んせ浮かび上がってくるかたちと合致してくる。「丁字草だ」

園芸カタログやお花のサイトを眺めていると、つい欲しくなるものがある。これまで育てたことのないものほど欲しくなる。冒険心がそそられる。未知への憧れがうずく。で、一昨年の秋、アーモンドの木を植えた。去年の春、ヘリンボーン形に行儀悪く枝が延び、葉が少々茂っただけ。柿の種を植えたカニの気分で、枝をチョン切り、リストラすることにした。

今年の春、掘り取って捨てるはずの木に、桃のような蕾がふっくらとついている。急いでリストラ名簿から削除。やがて桃よりもアンズより大きな美しい花が咲いた。ウィキペディアで調べ、アーモンド関係の実ができることがわかった。どうやってローストするか。コーヒー用の豆挽きで、アーモンドの実を砕けるか。一挙に夢想がふくらんだが、嬉しがる前に、植物とつきあうには信頼と忍耐心が必要だと、あらためて反省。