まお、脱走を企む



ドアから眺める


金網を検分する
頭突きする
プチ家出したい

暑い夏が終わった。

ほっとする、と同時に、この寂寥感は何だろう。炎暑にめげず、いたずらに躍動したぼくの姿があったのは遠い昔。さびしいことだ。

叢菊両開他日涙
孤舟一繋故園心

白帝城高急暮砧
(杜甫)

「今度はきぬた形の花入れを作ろうかな」里親が庭の貧相な菊を見ながらしんみり、傍でぼくも大いに「故園の心」をかきたてられる。はて、ぼくの故園はどこかと言えば、この家の床下である。無性になつかしい。

ぼくは基本的には「内猫」で、ぼくの額よりちょっとだけ広い庭は散歩するが、床下に入ることは厳しく禁じられている。でもうかつな里親の目をかすめるくらい簡単だ。ということで、里親がパンジーの間引きなんぞしているスキに、すばやく床下に入る。ところがこの故園、汚い。里親が放り込んだガラクタの山が危険だし、不法侵入してくる野イタチの悪臭までする。やはり「故郷は遠くにありてうたうもの」だね。

「まお、まおーっ」「まおが逃げた」

やばい。ぼくの消失にきづいた里親の金切り声。もう少しここにいて、里親の肝を冷やしてやろう。

「まおーっ、ムギアメですよー」

なに。ムギアメ(麦芽風味の毛玉排出ペースト、甘くて大好き)だって。思わず、床下から顔がでる。一、二歩乗り出す。とたんに里親に首をつかまれ、引きずりだされる。かくてぼくの故郷再訪は終わり。

後日、床下に入れぬように、金網が張りめぐらされた。おっちょこちょいにもネットでバックネット用金網を注文したらしく、端が固定されておらずガタガタ、スキだらけの出来映えは20点くらいか。まあ里親の努力に敬意を表して、しばらく床下にもぐるのはやめとこう。

でもあの日以来、ぼくに未知への憧れ(脱走心)が戻ってきた。二階のベランダはぼくの逃走を防ぐため防鳥ネットで囲ってあるが、だいぶボロっちくなっているので、ちょっと頭突きをためしてみる。隙間ができた。頭が出る、身体も出る。ひさしに跳び下り、ひさし伝いに歩き出したが、行き止まりである。思案していたら、里親に見つかった。

次は堂々と門扉の隙間から家出する。道路を横断、向かいの駐車場へ駆け込もうとしたが、寸前で補導された。

今度はもっとうまくやる。